白愁のとき~緒形拳さん
1996年のTBS月曜ドラマスペシャル『白愁のとき』。
夏樹静子さんの原作で、共演は黒木瞳さん、藤田敏八カントク、酒井美紀ちゃん。演出は大山勝美さんという豪華布陣で、確かその年のギャラクシー賞奨励賞を受賞した作品だった。
その折りに緑山のスタジオで緒形さんを紹介され、少しだけ話を交わした記憶がある。
その頃の緒形さんはホンにウルサイ役者さんというのが定説で、シナリオに自分で手を入れてセリフを書き直すという噂を何度も聞いていた。
しかし、この『白愁のとき』に関してはほとんど何の注文も出さず、ほぼホンの通りに芝居をしてくれたことが、誇らしくも嬉しかったことを今でも鮮明に憶えている。
そのシナリオは、原作では脇役の存在でしかない不動産屋を主人公に改変するという、原作者の激怒を買いかねない脚色を施したものだったが、幸いにもシナリオライター出身の夏樹さんが、広い心で「どうぞご自由に」と許可をしてくれた。
そして、ある種破天荒なキャラクターを持った、そんな映像ドラマ上の新主人公像を、緒形さんは見事な芝居で演じきってくれたのだった。
やや品性を欠く言い方で恐縮だが、「やっぱり高いギャラを持っていく役者さんだけのことはある」と、黒木瞳さんのこれまた見事な読解力に裏打ちされた芝居とともに、自分がかかわった作品の中でも忘れられない一本になっている。
掛け値なしのホンモノ、誰の目から見ても稀代の名優だった緒形さんと、たとえ一本だけでもそんなクオリティの高い仕事ができたことを誇りに思いつつ、合掌……。
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